若手研究者、日日是好日。

大学の若手研究者。このブログは研究内容や勉強内容、日々の活動などの備忘録。

企業研究者のための人生設計ガイド その1

今回勉強になった本は「企業研究者のための人生設計ガイド」です。

 

 

 著者は鎌谷 朝之氏。鎌谷氏は、大阪大学を卒業後、カリフォルニア大学アーバイン校大学院博士課程修了、その後、3つの企業を経験しております。本書の中に、この非常に面白い経歴の詳細が書かれています。

 

 この本は、「企業研究者のリアルな姿を知って、研究者を志す学生の人生の選択肢を増やす」ことを目的としています。本書は、3部(合計12章)から構成されています。本日は、第1部で特に勉強になった箇所を整理していきます。

 

 そもそも私が本書を選んだ理由は、”企業研究者”という言葉が目に付いたからです。私は、工学系出身なのですが、学部・修士・博士の学生が研究所へ行くことは稀です(勿論、分野に依りますが)。そのため、企業の研究者はどんなことをしてるのかなぁと興味を持ちました。また、大学教員は基本的に多忙なため、本書のように”研究者の活動”を書くことも稀です。特に、著者のような企業研究者となると、企業の情報を公開するかもしれないということで、企業から出版NGと言われる可能性もありそうです。
 そのため、本書を通して、企業研究者の姿、研究者の一端を学ぶことができると思いました。

 

では早速ですが、1部では次のような書かれていました。

 

『平成29年度の科学技術研究費は19兆504億円にのぼり、このうちの7割に相当する13兆7989億円が企業の研究費というのだ』
『日本国内の研究者の約57.3%を企業研究者が占めている』


私はこの事実を全く知りませんでした。研究者=国や大学の研究者と思っていたので、研究費の金額も研究者も数も企業の方が多いということに驚きました。

 

そんな事実から、著者はさらに大学研究と企業研究の違いを述べています。

 

『企業の研究は営利目的であることだ』
『企業の研究開発活動の場合は短期間で製品やサービスとして世に出ることが多く、売り上げの大小にかかわらず社会の役に立てていると実感することができる』

 

 大学研究は、一見、何のための研究かわからないことが多いことは確かなので、企業の方が研究がより社会に近いということは事実だと思います。ただし、大学研究と企業研究のどちらを好むかは個人の価値観の問題であるので、一概にどちらが良いとは言うことができません。本書の中でも、企業ならではの苦労が多く散見され、本書を読む人にとっては単に”面白い”経験なのだが、著者はさぞかし苦労したんだろうなぁ・・・と思いました。

 

他にも、筆者が思う研究者像として、次のように述べています。

 

『自分の研究テーマどんどん膨らませて発展させていく柔軟さか、〜〜〜将来の可能性を信じてひたすら1つの分野を追求するストイックさ、もしくはその両方が求められると思っている』

 

 この文章を読んだとき、はっと我に帰り、”そんな能力を持っているかなぁ〜”と思ってしまいました。最近、新しい研究分野に取り組もうと思っています。同じ研究を続けていると行き詰まり感が若干出てきます。研究者は論文を書いてナンボの世界であるので、行き詰まり間が無いに越したことはないです。私の分野にも、流行りの研究内容というのはあるので、学術的な価値を考慮しながら、新しい分野にチャレンジしたいと思います。

 

さらに、プレゼン能力についても言及しています。

 

『日米を含めた世界中の理系研究者に共通するのが「専門外の人に説明するのが下手」ということだ』

 

 私もまさにプレゼン下手である。プレゼンが無ければなぁ・・・と何度思ったことか。就職面接や研究費獲得面接を何度も経験してきたが、その時の面接官は専門外であることが殆どです。同じ研究分野であれば、今どんな研究をしていて、どこが新しいポイントなのか、は大体わかります。しかし、専門外の人に対しては通用しません。それは、知識の出発点が違うことも大きいですが、そもそも使う”言葉”が違うのです。これが厄介。同じ言葉でも違う認識を持つ場合が多く、言葉のすり合わせ無しに、プレゼンをすることが如何に困難か。何度、面接をしても、この難しさをなかなか克服できていません・・・。


 本日はここまで。1部には、他にも色々なことが書かれていますので、興味がある人とは是非一読ください。
 次回は2部以降をまとめていきます。